その女性が初診で来られたのは5年前の2005年3月でした。
その時彼女は27歳でパンを作っている職人さんです。
朝は4時半に起き、5時半にはお店に出てその日のランチのためにその時間から準備をするそうです。
一番大変なのはパン生地をこねる時で、これが相当な力仕事らしく、それが原因での腰痛持ちでした。

 私がパン職人の彼女に身体的特徴以外で抱いた印象は
-履いてるソックスが面白いな-
-よく寝る娘だな-
ということでした。

 初診のときはルーズソックスを履いていましたし、5本指ソックスの足の甲には何かのキャラクターの顔があって足の指のところが大きく開けた口の歯に該当して、5本の歯(指)の色が全部違う・・・というようなユニークなデザインのソックスを履いていたりするのです。

 そして、施術中に本当によく眠る。
45分ほどの施術時間で30分ほどは眠っていたんじゃないかと思います。
本人にそれを聞くと、
「私、どこでも眠っちゃうんです。困るのが会社の会議中によく眠っちゃうので、怒られるんですよね~」
という感じです。

 パン職人の彼女は初回以降、2ヶ月に1度のペースでずっと継続してご来院頂いていました。
その間、どこのパン屋が美味しいとか、お店にテレビの取材が来てその影響がどうであったかとか、様々な会話をしていたのです。

 2008年の10月に、彼女が
「私、結婚したんです。住所も変わりました。」
と言うので、引越し先を聞くとすぐ近くです。
ご結婚相手について聞くと、スペイン語教室で知り合った男性とのこと。
そのことを祝福して、またいつもの2ヶ月に1度のペースでご来院され、施術をしていたのです。

 そして、日が過ぎた2009年8月に彼女の予約が電話で入ります。
来院までの時間にカルテを見ると4ヶ月ほど期間が開いている。
予約の時間通りに彼女がドアを開けて入ってきたのですが、すごく日に焼けているのです。
彼女は夏でも日焼けせず、いつも肌は白いので、
私が
「日に焼けましたね。どこか行ってたんですか?」
彼女は
「えぇ、中南米に3ヶ月ほど旅行してきたんです。」

 3ヶ月前と言えば5月のはじめ。
メキシコで流行した「豚インフルエンザ」という呼び名が「新型インフルエンザ」へ一斉に切り替えられた頃の事です。
覚えていらっしゃると思いますが、あの当時はマスコミが「新型インフルエンザ」への不安と恐怖を煽りに煽り、まるで日本全国が集団ヒステリーを起こしたんじゃないかという時期のことです。
その時期に彼女たちはまさしくこれから震源地に向かおうとしていたわけです。
(つづく)