今回は2006年にぎっくり腰で友人に紹介されて初来院された鎌倉市にお住いのMさん(女性/54歳/パートの方)の症例です。
今回は左の肩に痛みがあり、それが背中まで広がったとの事。
それに左手首を反らすと痛みがあり、その痛みは肘まであるとのことです。
今回のケーススタディは手首を反らすと痛みがあるという症例です。

手首に痛みが出ると考えられる主な症状

1.手根管症候群
2.ドケルバン症候群(腱鞘炎)

1.手根管症候群について

手根管症候群は、正中神経が手首の手根管を通る所で圧迫されて痛みが引き起こされる病気です。
手の親指に近い指と手のひらが、チクチクしたりしびれたりします。

手根管とは

手根骨
この図の手首に近いところにある小さな骨の集まりが手根骨です。
斜めに菱形に描かれているのが屈筋支帯で、手首を折り曲げる方向に働く前腕の屈筋を支えるベルトのようなものです。
手根管断面図
この図は上の手根骨付近の断面図です。
この管状(英語ではトンネルと表現しています)の中を様々な腱、神経、血管が通っています。
ここが何らかの原因で狭くなり、神経を圧迫しているのが手根管症候群です。

悪くなる原因

手根管症候群はよくある病気で、特に30~50歳の女性に多くみられ、片手のみに起こることもあれば両手に起こることもあります。ドライバーを使うときのように、手首を伸ばした状態で繰り返し力を入れる動作を要求される仕事をしている人は、リスクが高くなります。不適切な位置でコンピュータのキーボードを使うことが、要因の1つである可能性もあります。(中略)
しかし、ほとんどの場合、発症の原因は不明です。
MSDマニュアル家庭版より引用 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/08-骨、関節、筋肉の病気/手の病気/手根管症候群

整形学検査

ファレン テスト
整形学テスト ファレンテスト
手首をこの図のようにして、1分間ほどその状態を保持します。
ビリビリする感覚が再現される場合は、陽性で手根管症候群が疑われます。

カイロプラクティックの調整

カイロプラクティックの調整としては、この手根管を形成している手根アーチを元の状態に戻すのが目的となります。

2.ドケルバン症候群とは

ドケルバン症候群(英語では「洗濯婦のねんざ」とも呼ばれる)とは、手の親指を外側に動かす腱や腱鞘の腫れと炎症のことです。

腱鞘とは

腱鞘の解剖図
http://www.georgia-clinic.com/blog/2014/10/treatment-for-de-quervain-tenosynovitis-in-augusta-ga/ より引用
この図は親指の腱鞘の図です。
自転車のブレーキのワイヤーに例えると針金のワイヤーが「腱」でワイヤーを包んでいるチューブが「腱鞘」です。

腱と腱鞘の間には滑液という潤滑油のようなものが満たされていて、腱の動きを滑らかにしています。

悪くなる原因

手の親指を過度に使用することで親指を外側に動かす腱や腱鞘の腫れと炎症が引き起こされます。

中年の女性に多いとされていましたが、最近はスマートフォンの過剰使用でこの症状を引き起こす人が増えています。

スマートフォンを持つ様子

整形学検査

フィンケルスタイン テスト
整形学テスト フィンケルスタイン テスト
図のように親指を4本指で握り、図の方向へ拳を傾けます。
手首の内側に激痛が出るのなら陽性でドケルバン症候群(狭窄性腱鞘炎)が疑われます。

カイロプラクティック調整

親指を過剰使用して引き起こされています。
この負担が特に出る筋肉は長母指外転筋です。
そこを緩めるのが対症療法となります。
長母指外転筋の図
この図は左腕を手の甲側から見た図です。
1つだけ描かれているのが長母指外転筋です。

Mさんへの問診

左の手首と腕について痛む箇所と痛くなる動作について問診します。
痛くなりだしたのはここ1週間から10日程とのことです。

痛みのある箇所

左手首の痛む場所
痛む箇所は手首の真ん中付近で、親指側や手のひらではないとのことです。
(これだけでも手根管症候群やドケルバン症候群の可能性が低くなります)
痛む動作は手を反らすと痛み、その状態で力が手首にかかると痛くてしょうがないとのことです。

ちょうど腕立て伏せのような感じで、机に手をついて体重をかけると痛いそうです。
腕立て伏せのポーズ

きっかけまたは原因

きっかけや原因は思い浮かばないとの事です。
転びそうになって、あわてて地面に向けて手を出して踏ん張ったというようなこともないか尋ねましたが、無いとの事。
こういうアクシデントで手のひらの小さな骨に骨折やヒビが入ることがあるからです。

カイロプラクティック的考察

過去の同様なケース

私が診てきた中で過去の同様なケースが何例もあります。
それには上のような○○症候群という名前は付けられていないようですし、見当たりません。
同様のケースで共通しているのは、日常で手を反らして腕や手を酷使する仕事についている人たちです。

キーボード入力とマウス操作

1日中PCに向かい手首を反らしながら、キーボード入力とマウス操作を繰り返している人。(こういう人はとても多くいそうですね)

ウエイトレス

飲食店のウエイトレスのようにお盆の下で手首を反らし、上に物を乗せて運んでいる人。

整体師
かつてカイロプラクティックの専門学校で仲井D.C.に指摘を受けたのですが、カイロプラクティックや整体師、指圧・マッサージ師なども手首を反らして体重をグッとかけるので手首を痛めやすい職業なのです。

Mさんのケースと見立て

整形学検査

上の整形学検査を2つ実施しましたが、どちらも陰性。

触診

手根伸筋群の図
この図は左の手首を反らせる筋肉だけを示してあります。
左の腕を手の甲側から見た図です。
①長橈側手根伸筋
②短橈側手根伸筋
③尺側手根伸筋
④手根関節

日常の仕事で手を反らし腕を酷使する人はこの①~③の手根伸筋群が過緊張を引き起こし、筋肉は短縮し、手首を身体の中心部に(肘方向に)引く力が強くて、手根骨を外側+体幹方向にずらします。

それで、手根関節の間隙が狭くなっています。
おそらくこれが手首を反らして力がかかると痛みが走る本態でしょう。

お仕事についてMさんにお聞きすると、パートで1日中PCに向かってキーボードを打っているとの事。

カイロプラクティック調整

このブログのカイロプラクティック症例で繰り返し訴えていますが、強い力が加わったアクシデントや外傷でなくて、痛みや問題が出てきたということは、痛みのあるところだけに問題があるとは考えていません。

早く改善するためや再発を繰り返さないためにまず、全身から調整して対症療法を行います。

全身調整

全身調整では今回は特に左の首、肩、背中を重点的に調整しました。
それに加えて、キーボードを1日中打っている姿勢で負荷がかかる箇所、

具体的には大小胸筋、上部胸椎、後頭下筋群などです。

PCに向かうデスクワークの図

対症療法

左の①~③の手根伸筋群が過緊張を緩める調整と手首の牽引、橈骨と尺骨関節の引き締めを行いました。

ビフォアー アフター

最初の問診時に左手の手のひらを机に置いて机に体重をかけるようにすると痛いと聞いていました。
「Mさん痛いことをさせるようで申し訳ないんですが、その痛い動作を今ここでやって頂けますか?」
痛みの再現を確認して、施術を開始しました。

施術後、
「先程、痛かった動作をもう一度やって頂けますか?」
とお願いしました。

Mさんがやったところ、目を大きく見開いて
「痛くない!」
後は再発しにくい作業環境をアドバイスして終了です。

最後までお読みいただきありがとうございます。
今回の記事があなたかあなたの周囲で同様のケースでお困りで参考になれば幸いです。