今回は2年8カ月前にぎっくり腰を発症して、先月も腰痛を発症した人の症例です。
その方は普段はスペインのバルセロナにお住まいで年に2回ほどバカンスを利用してご実家の鎌倉の長谷に帰国される上田(仮名)さん(女性/72歳/通訳の方)の症例です。

予約までの経緯

現在から3年近く前の2015年12月24日のクリスマスイブの日に電話がありました。
電話の主は2004年の3月からずっと腰痛で定期的の来られていた井上(仮名)さん(女性/43歳/パートの方)でした。
聞けば叔母様にあたる方がひどく強い腰痛で、動けず湘南鎌倉総合病院へ救急搬送されたとの事。
検査の結果、骨には異常無しとのことで担当の医師の見解ではぎっくり腰でしょう、との事です。

電話をかけてきた井上(仮名)さんもよくぎっくり腰をやる人で、例えば羽田空港に着いたときに羽田からSOSの電話がかかってきて出来るだけ早い時間の予約を取って鎌倉で調整したりすることもありました。

まだ病院にいるが、出来るだけ早く叔母を診て欲しいとの予約の電話だったわけです。

問診

ぎっくり腰にはこういうことが原因で痛みが出始めたという自覚がある場合が多くあります。
発症に至った経緯を聞きました。

発症歴

12月20日(日)出国準備のため重い荷物を階段の所に移動した。(スーツケースと思われます)その時少し腰に違和感があった。
12月21日(月)右腸骨稜に軽い痛みがあった。
12月22日(火)その痛みが左へ移動した。
12月24日(木)左腰の痛みが激痛となり動けなくなる。

問診で痛む箇所の図

可動痛検査

重症なぎっくり腰は曲げても、ねじっても、傾けても何をしても痛いものなんですが、
特に痛い可動痛を調べました。
それが前屈痛、後屈痛、右回旋痛。
痛みがある箇所は全て左腰部。

明確な目標

ツライ症状があって治療院を初めて訪れる人は誰でもそうなんでしょうが、早くしかも少ない回数で良くして欲しいと思うものですが、この患者さんは差し迫った状況があるためあるリクエストをもらいました。

期限(タイムリミット)

1月4日(月)に出国の飛行機のチケットを取っている。(私の記憶ではアリタリア航空だったと思います)
チケットを延期せずに予約便でスペインのバルセロナまで帰りたい。

身体の状態

成田とバルセロナの空港では一人で数千歩歩かなければならない。
フライトの時間はトランジットを合わせて17時間。
その間同一姿勢で座っていなければならない時間がかなりある。

スーツケースの持ち運びは成田までは鎌倉の家族のサポートがあるが、スペインの空港ではBaggage Claimで一人で重いスーツケースを受け取り、それを引っ張りながら空港のゲートを出なければならない。(空港の外では知人が車で迎えに来てくれるそうです)

身体の状態を1月3日(日)までにそれが可能なようにして欲しい。
タイムリミットは10日程。

さて、もしこの記事を読んでいるあなたが手技を行っている施術者であったなら、先程まで救急搬送された人が自分の前に座っていてこういうお願い事をされたら、どう思うでしょうか?(12/31~1/3までの自分の正月休みを削る可能性もあります)

逃げ出したくなる?
何とかしようとやる気が出る?

触診

左側の骨盤の上後腸骨棘(●印)が後方と下方にずれている。
左の腰部起立筋の過緊張が強い。
腰椎3~5番の左の椎間関節(★印)の関節の間隙が狭まり、可動性が減弱している。

骨盤図

カイロプラクティック調整と後日のフィードバック

パシフィック・アジア・カイロプラクティック協会という団体は規模とクオリティで日本で1,2位を争う所なのですが、その協会所属の専門学校ユニバーサル・カイロプラクティック・カレッジで3年間学びました。

3年次に当時の協会会長の渡辺先生に1年間実技を学んだんですが、先生がご自分の臨床経験から一瞬おっしゃた言葉が忘れられません。

「お辞儀した姿勢から元に戻すとき痛いのは腰椎3番、お辞儀してゆくとき痛いのは腰椎4番、曲げても反らしても痛いのは腰椎5番」

時間的長さでいうと15秒ほどのセリフなのですが、私は決してこのセリフを忘れず臨床に望みました。そして、このセリフは金銭に変えられないほど貴重なものだったのです。

鎌倉でカイロプラクティックに関しては誰も頼れないという状況で開業して、数多くのぎっくり腰の患者さんを診てきましたが、上の指針を知っているのと知らないのでは大きな違いでした。
長年自分なりの解答を考えていたのですが、どうやら解剖学的構造にヒントがあるようです。

脊柱図
これは脊柱の図です。
腰椎の前弯(前へのカーブ)で腰椎の3番がカーブの頂点になっているのがお分かりでしょうか?
ここが損傷を受けると前弯をさらに強める動きに痛みが出るのでしょう。

腸腰靭帯の図

この図は骨盤が透けて描かれていて、腰椎4番と5番を横から見たものです。
靭帯が前曲げでは腰椎4番の靭帯が伸張され、後屈では腰椎5番の靭帯が伸張されているのがお分かりでしょうか?

12月24日のカイロプラクティク調整

【今回の調整】
うつ伏せ 左後方骨盤と右前方骨盤の歪みをブロッキングで調整。
     腰椎3~5番左椎間関節を上方に持ち上げる調整。
仰向け  左大腰筋短縮をストレッチ。
座位   腰椎5~3番の左回旋変位を調整。

12月26日 前回調整のフィードバックと今回の調整

【フィードバック】
前回の調整後、かなり痛みは緩和した。
鎮痛剤を今朝止めてみたが、痛みはかなり少ない。
身体を右に捻じった時、鈍痛が少しある。

【今回の調整】
可動痛が2日で随分軽減したので、前回の調整法を踏襲して行う。
右回旋痛に関して、腰椎の右回旋制限を触診で検査したところ腰椎3番に可動制限があったためそこを重点的に調整。

12月28日 前回調整のフィードバックと今回の調整

【フィードバック】
腰の調子は良好で、痛みではなく違和感レベル。
スペインへ帰るリハーサルとして、自宅の周りを数千歩散歩してみたが問題なし。
ただ、重いものを持つのは怖くてやっていない。
腰の痛みが緩和した分、ぎっくり腰前からあった右肩の痛みを感じるようになった。

【今回の調整】
2回の調整で違和感レベルまで持ってこれたので、前回の調整法を踏襲して行う。
右肩の痛みは上腕二頭筋の長頭腱に痛みがあるので、そこの調整を追加した。

今の身体の状態でスペインまで帰れそうかと尋ねたところ、大丈夫そうだとの返答で、今回で調整は終了。

それから2年8か月後の2018年8月

8月23日にカイロプラクティックの調整中に電話がかかってきました。
「2年ほど前にぎっくり腰で調整してもらった上田(仮名)ですが、覚えていますか?」
「あぁ、もちろん覚えていますよ。井上(仮名)さんのご紹介で年末に来られた方ですよね」
そう。その言葉通りこの方はスペインに帰らなければいけないタイムリミットを設定して、身体を良い方向へ持っていかないといけないと頑張ったので強く記憶に残っているのです。

「今日あたりから右腰が痛くなって・・・8月27日の朝に出国しなければならないんです!」

(今度のタイムリミットは4日か~)

「あ、でも今回は前回ほどひどくはありませんので」

8月24日問診

上田(仮名)さんは24日の午後の予約となりました。
当日午前中に2年8カ月前のカルテを棚の奥にしまってあったファイルから引っ張り出します。
今日の調整用に過去の調整を調べてみると、ぎっくり腰で痛めていたのは腰椎3~5番の左側。
これを見て私は眉をひそめます。
昨日の電話ではと訴えていました。

人の身体の歪み方は数年でそう変わりませんから、別の原因を考えなければならないかもしれません。
時間通りに上田さん来院され問診が始まります。

私が1番最初に尋ねたのが腰の痛い箇所はお電話でもおっしゃっていた右ですか?ということです。
上田さんは電話でのことは言い間違いで、痛いのは左だと訂正され、痛い箇所に手を当てます。
そこは、2年8カ月前に頑張って一生懸命調整した腰椎3~5番の左側。

痛むきっかけとなったのが8月20日に身体の左側で重い荷物を持った、その後からとの事。
私は2年8カ月前の問診のきっかけを読み直します。
今回も前回とまったく同じく4日前に重い荷物を持ったことがきっかけになっているのです。

8月24日のカイロプラクティック調整

【今回の調整】
前回と同じきっかけで痛んでる箇所も同じことから前回の調整を踏襲することを選択。

うつ伏せ 左後方骨盤と右前方骨盤の歪みをブロッキングで調整。
     腰椎3~5番左椎間関節を上方に持ち上げる調整。
仰向け  左大腰筋短縮をストレッチ。
座位   腰椎5~3番の左回旋変位を調整。

この時かすかな違和感とぼんやりとした『?』が頭の中に残る。
上田さんが痛い箇所として手を当てたところより、上の場所や横の場所に張りと緊張を感じたからです。

8月25日前回のフィードバックとカイロプラクティック調整

【フィードバック】
前日の調整を受けて、今日は痛みが少し減っているものの左ももの外側に張りを感じる。
椅子に座って胡坐をかくように左足を持ち上げ右腿の上に左足首を乗せて靴下を履こうとすると左腰にピリッとした痛みが走る。

この報告を聞いたとき私の判断は
(下部腰椎は現時点では問題ではなく、上部腰椎と腰方形筋が問題ありだな)
でした。
腰方形筋の図

この図は腰方形筋を前から見た模式図す。
左の腰方形筋は収縮して硬くなっています。

どのような身体の使い方でこうなるかと言うと・・・左手で重いスーツケースを持ち上げたりするとこのような状態になります。今回の問診でも上田さんは「8月20日に身体の左側で重い荷物を持った」と話していますね。

腰方形筋模式図

これは左の腰方形筋の模式図を後ろから見たものです。この筋肉は2層になっていて、浅層が濃い緑色で描かれています。

 

腰方形筋模式図この図は上の図から腰方形筋の浅層だけを示したものです。
8月24日のカイロプラクティック調整で私がかすかな違和感とぼんやりとした『?』が頭の中に残ると感じていたのがこの腰方形筋の浅層の上3つの筋肉群なんですね。

【今回の調整】
うつ伏せ 左後方骨盤と右前方骨盤の歪みをブロッキングで調整。
     腰椎1~3番左椎間関節を上方に持ち上げる調整。
     腰椎3番の左椎間関節を開く調整。
横向き  腰椎1~3番左椎間関節を前方に持ってくる(前弯を作る)調整。
座位   腰椎1~3番の左回旋変位を調整。
     腰椎1番から腸骨稜に向けてのテーピング。

8月26日 前回のフィードバックとカイロプラクティック調整

【フィードバック】
前回の調整を受けて自分の腰でどこが痛いのかピンポイントで分かるようになった。
そこがどういう動作で痛くなるのかも分かるようになった。
具体的には上半身を左に捻じるとある1点が痛い。

痛い箇所がぼんやりとしていたのがピンポイントで分かるようになるというのは良い傾向です。

腰方形筋模式図

指差したところが腸骨稜で昨日テープを張った開始点です。
どうやら現時点では腰方形筋が主要な問題点なようなのでそこを重点的に調整します。
腰方形筋の調整後

「上田さん、さっき左に捻じって痛かったと思いますが、今捻じってみてどうでしょう?」
「痛みが全然ありません!」

後は、時間が少しあったのでスペインでリハビリをしているが今一つという五十肩の調整を行いました。
彼女は五十肩に特有の「結帯動作」(手を後ろに回して帯を結ぶ動作)が制限を受けています。
左手はブラジャーのレベルまで腕を回せるが、右腕はベルトのレベルまでしか回せず着替えに苦労しているとの事。

マッスルエナジーテクニックで結帯動作の可動域を広げてゆくと、5回ほどのストレッチで右腕がブラジャーのレベルまで腕を回せるようになり、満足いただけたようです。

最後に

私はカイロプラクティックの調整に入る前の問診を重視しています。
観察する対象は身体の使い方や歪み方、話す言葉、表情、ボディランゲージ等様々です。
たまにですが、話してる言葉とボディランゲージが異なる場合があります。

「右肩が凝って~」などと話しながら右手で左肩を触ったりする人がいるのです。
「手で左肩を触っていますが、右肩が凝っているんですか?」と質問すると多くの場合ボディランゲージの方が合っていて
「いや、左肩でした」と訂正されることしばしばです。

痛みを抱えている多くの人が痛い箇所がぼんやりしているものなのです。
そこで問診→検査→調整→検証と進めるうちに原因がピンポイントで分かってくる・・・
まるで推理小説の謎解きのようなゲーム感覚が持てる時、あぁ~この仕事は面白いなと感じられるのです。

最後までお読みいただきありがとうございます。