この日の会話が終わって彼女が帰った後、私にある疑問が浮かびます。
新婚旅行とはいえ、3ヶ月間とは仕事先もずいぶん理解があるのだな。
 そして、次に彼女が来院した昨年の年末に、ここまで聞いていいものなのか躊躇しながら。

「ご主人は新婚旅行とはいえ、3ヶ月間もよくお仕事を休めましたね」
彼女
「いえ、旦那は派遣切りにあっちゃたんです~ それで時間が出来たからお前も仕事やめてついて来いって言われて。それで旅行にいったんですよ」

「・・・・」
凄すぎる。超楽天的だ。

「それで。ご主人は帰国されて、お仕事はどうなんですか?」
彼女
「今、メキシコにいるんです。」

「えっ!?帰ってきて間もないでしょ?」
彼女
「え~、メキシコが気に入ったみたいで。今向こうの飲食店チェーンで働いているんです。」

「で、いつ帰ってくるんですか?」
彼女
「帰ってきません。」

「え~??で、あなたはどうするんですか?」
彼女
「旦那が来たければ来れば?って言ってますので、・・・行かなきゃな~と思っているんです。」

「・・・・」
ラテン、だな。

「いつ行かれるんですか?」
彼女
「ビザが取れ次第、今働いているところを1月末で辞めて、向かいます。」
 それから、年が変わって今年の2月彼女から予約の電話が入ります。
確か1月で仕事を辞めると言っていたけれど、と思いながら近況をお聞きします。
彼女
「明日鎌倉の家を引き払って、実家へ引越しします。そして、来週にはメキシコへ向かいます。」
 これには感激しました。
こういう仕事をやっていると、定期的に何年という期間で患者さんと交流していると、なんともいえない親近感を覚えるのです。
その人たちのうちである日突然来られなくなる方もいるのです。
そういった時はどうしてるのかな~ 元気かな~ などと気になるものです。
また、そうではなくて「いついつ付けで引越しするようになりました。お世話になりました」とちゃんと挨拶してくれる方もいるのです。
これが大変に嬉しいのです。
 彼女の場合、引越しの前日という忙しいであろう日に来てくれて、ちゃんと挨拶をしてくれた。
こういった些細なことが、今後も日々頑張っていこうという心の支えになるのです。
 なんとなく閉塞感があって些細なことにヒステリックになっている世の中で、彼女のように楽天的にスルっと海外で暮らしてしまう。
そこまでの経緯に感嘆させられたり、抱腹絶倒させられたりしてきたのですが、同時に勇気も貰ったような気がします。
願わくば、メキシコでの彼女達に幸多からんことを。